
ヤマハモーターソリューション株式会社
金原 めぐみ
「現在の世界の人口を100人の村に縮小したら、そのうち50人が栄養失調に苦しみ、70人は字が読めない。1人が大学教育を受け、1人がパソコンを所有している」
これは、『世界がもし100人の村だったら』からの引用である。これを聞いて、何を感じるだろうか。私には、日本人が普段いかに恵まれた、世界的に見れば特異な環境で生きているかが際立って見える。
日本がこれほど豊かな国になったのは、戦後を生き抜いた世代が汗をかいて必死に働いたからである。しかし現代では、生まれた時から「頑張らなくてもそれなりに生きていける環境」の中で育ち、生きるための苦労をした経験が無い、情熱を傾けられるものが無い、何を目指して生きればいいのか分からない若者が今、確実に増えている。
平和ボケしてハングリー精神を失っている若い世代の、仕事に対する意欲を向上させることが、日本の企業がこれからの厳しい時代を生き抜くための鍵になるだろう。
私の現在の生き方を方向付けた原点は、高校時代に所属していた山岳部にある。そもそも人がなぜわざわざ山に登るのかと言えば、物に溢れ便利すぎる現代に何か物足りなさを感じ、人間の原点に戻りたくて登るのだと私は思う。私達は水と食料とテントを背負い、5日間山にこもったことがある。目指す山頂へ死ぬ思いで辿り着いた時の感動は、生涯忘れないだろう。車もない、テレビもない、文明から切り離された「山」という特殊な場所で、人は生きることについて考える。私はそれまでは、ただ単に生きていた。しかしその時山頂で、「こんな感動をもっと味わうために生きていこう」と、心底思った。
その後就職が決まって、入社する前までは、私は社会に出て働くということについての意識は漠然としていた。しかし幸せなことに、私が就職した企業は、新人教育に対して真剣に取り組む企業であった。IT企業でありながら新人研修の中で工場実習をさせて頂ける企業など、おそらく他にないだろう。世界的規模で二輪車や船外機などを製造する大企業を、IT技術でサポートするという役割を担う当社では、実際の製品や製造業自体に対する「実感を伴う理解」を大切にしているのだ。
私がそのような新人研修を通じて最も深く感じたことは、情熱を持って働いている人達は輝いて見えるということである。バイクについて熱く語る設計者、工場で汗を流しながら熟練の技を見せる作業員、懸命に日本語を学ぶ中国人など、様々な出会いを通じて、私も誇りを持って自分の仕事を語れる人間になりたいと思った。仕事を通じて得られるものはお金だけではない。仕事に情熱を傾けることで、ただ漠然と生きているだけでは得られない感動を味わっていきたいと感じた。
若い世代の目を開かせるために欠かせないことは、多くの「実体験」を積ませることである。実感を伴わない理解は単なる知識であって、知恵ではない。ひとつの仕事を通じて味わった感動が、次の仕事への情熱を生む。
そして情熱が支える仕事は、途中で挫折することなく最後までやり遂げられる。そのような、社員一人ひとりの仕事に対する姿勢が、企業の行く末を大きく左右するのだと思う。
そしてもうひとつ、私達新入社員が何よりも最優先に身に付けなければならない事は、違う年代の人や価値観の違う人と積極的に語り合うことで刺激し合い、その人達と共に仕事をする信頼関係を築く力である。
私達の世代が船出した社会は、既にある程度成熟した社会である。その中で私達の世代が、先輩方の作り上げてきた土台に乗ってあぐらをかいていたら、間違いなく日本の未来は無い。すべての既存の仕組みには、そこに至った経緯と背景がある。会社の歩んできた歴史を理解する努力と、新しい視点で改善していく努力を怠らないことが、私達の世代の使命だと思う。
いずれ将来、私達自身が会社の方向性を見出していかなければならない時が来る。その前に、すべてをゼロから築き上げてきた世代から、なるべく多くの知恵を学び取らなければならない。そのためには、世代を超えた交流と、正面から向き合った会話が必要である。
自分個人としては、今担当している仕事が会社全体の動きに対してどの部分に効いているのかを日々考えながら働いていきたい。新入社員である現在の自分にできることはごく僅かだが、会社という大きな組織の中で早く自分の果たせる役割は何なのかを見つけ出したい。そしていつか、自分のしてきた仕事について、誇りを持って熱く語れる人間になりたいと考えている。
(注)参考文献
『世界がもし100人の村だったら』
池田香代子、C・ダグラス・ラミス
マガジンハウス / 2001年