
ヤマハモーターソリューション株式会社
菅沼 源
IT企業に入社して3カ月以上が経ったがITスキルを学ぶ機会は未だにない。研修日程を知らされた当初は自分が想像していた研修内容とのギャップに戸惑っていた。私は大学で情報技術の学科を修め、企業ではその知識をさらに深め業務に活かせる形に昇華させるのが研修であると考えていたからだ。事実、新人研修でITスキルの習得をメインに行う会社も多い。スキルのない人間が適切なシステムが提案できるかと問われれば私は不可能だと考える。ITスキルは必要なのだ。しかし私が研修で受けた主な内容はシステムの導入先であるお客を知るという研修が主な内容だった。
システム開発における現状ではお客の要求していたものとは違ったシステムを開発してしまい、その結果クレームが発生し、お客の信用を落としてしまうことがたびたび起きている。会社としてもシステムの変更や作り直しを余儀なくされ無駄なコストが発生してしまう。これは顧客の要求を的確に把握できなかった、または要求を引き出すことができなかったことが理由に挙げられる。ここでよく重要視されるのは顧客の要求をヒアリングする際のコミュニケーション能力と言われる。コミュニケーションというと話の上手さがイメージされやすいが、お客の要求を引き出す上で必要なコミュニケーション能力とは要求を正しく理解するということである。そのために相手の業務とともに、なぜシステムが欲しいのか、要求の背景まで理解することが必要になる。では「理解」するということはどういうことか。私の考える「理解」とは顧客の業務を実感として得ると言うことである。
新人研修を受ける中で1カ月間、工場で働く機会を得た。その中で私はラインに立ち実務を行った。ただ職場の説明を座学で学ぶより、体を動かしたことで、よりシステムユーザに近い視点で業務内容や、生産現場の雰囲気、さらには苦労も体感することができた。孔子の言葉に次のようなものがある。「聞いた事は忘れる。見たことは覚える。行動したことは理解する。」やはり顧客視点を養うためには業務を体験することが最適だと私は思う。例えば一日中の立ち仕事は疲れるということは働く以前から分かっていたが、どこがどう疲れるのか、どれくらい疲れるのかなど、実感すると顧客業務の理解度がかなり増すし、何より実際に行動することで強く記憶に残る。作業場でやり取りされる会話も研修開始当初は専門的な部分はほとんど理解できなかったが、研修後半に入ると現場の言葉も大分理解できるようになる。この経験は私が今後作業現場のシステムを作るとき、相手の業務を理解する重要な基盤となる。同じ現場の中で働いた経験で現場の言葉を理解しているし、苦労を実感しているのだから当然である。そして相手の業務を実感した上で顧客の要求を聞くことは相手の求めるシステムの姿にも最短で到達することができるし、なぜシステム化したいのかも実感に近い形で想像することができる。自身も要求を深く理解しているのでお客に対してより良いシステムを提案することもできるし、システムを導入することで具体的にどんなメリットがあるのか的確な説明が可能となり顧客に安心感を与えることができる。業務で常に相手の業務を体験することは効率から見て不可能だが、それでも実際に現場に足を運び見学するなど、システムを導入する相手の業務をなるべく近くで感じることが必要である。IT技術者は進歩する技術の中で常に新しい技術を取り込んでいく必要があるため、どうしても視野がITの内側へと向きがちである。これでは顧客視点をおろそかになってしまう。顧客の要求を十分に理解できず言われたものを機械的に作ってしまい満足の得られないシステムとなってしまう。私たちにとってシステムを作ることは決して最終目標ではない。システムを導入することで顧客に対してどんな利益をもたらすことができるかを考えるのが我々の仕事である。だから理想としてシステムの導入先の業務からエンドユーザまで一つの流れとして理解してシステムを考えられる広い視野を持った人材となることが必要である。
そのためには人と人とのつながりを大切にする会社であることが大切である。まず会社として開けた職場を作ることが重要である。情報を得るには二つの方法がある。自ら調べるか、人から聞くかの二つである。後者の場合、人と人とのつながりがあれば普段何気ない会話から情報を得られる。これは意識することなく広い視野を育てることになり、自然と豊かな人材が育つ。そしてその繋がりを社内にとどまらず、様々な人と持てる企業こそが成長できる企業である。また私も自らお客に歩み寄りさまざまな業務の実感を持った人の生の声を聞き、顧客の業務からエンドユーザにいたるまでの流れを把握し、システムを提案できる人材を目指したい。