
ヤマハモーターソリューション株式会社
大霜 充利
私が目標としているシステムエンジニアは、非常に幅広い知識が必要とされる職である。現在はその第一歩としてプログラムの勉強をしているが、今後はコンピュータのこと以外にも、幅広い業務知識を身につけ、システムエンジニアとしての武器を磨いて成長していかなければならない。
中小企業が成長していくのにもこれと同じことがいえるだろう。市場が同じパイの奪い合いになっている現在、単一事業での成長は困難だからである。ただ、新事業を始めることはリスクを伴う。「失敗」=「倒産」の危険性があるし、倒産までいかなくとも、経営資源の分散化による競争力の低下は否めない。
まずはじめに指摘しておきたいのは、安易な経営多角化は避けた方がよいということである。事業一本化による経営資源の集中、規模の利益などのメリットは大きい。できるだけそういったメリットを潰さないように、シナジー効果が期待できる経営多角化について考えてみたい。
「経済のソフト化」という言葉があるが、経営多角化を考える上で、これは重要なキーワードになる。
日本IBMは1990年、「サービス・カンパニー宣言」をした。IBMはそれまで売上の大部分をハードウェアが占めていたが、これを機にサービス事業に本格参入したのである。2000年にはサービス事業の売上が全体の50%を占めるまでになった。
NTTドコモは1999年、iモードのサービスを始めた。これにより携帯電話はネット端末に変身を遂げた。その後のiモード事業の躍進は周知の通りである。
IBMは製品が売れたとき、自然発生するであろう需要に対するサービスを提供した。ドコモは新たに魅力的なサービスを創出することで、需要を喚起させた。
これらの特徴は、それまで売っていた「モノ」に対して「付加価値」を加えた点である。市場が成熟し、商品自体での差別化は難しくなった。ならば付加価値で勝負、というわけである。このようなソフト化は、多角化を考える上で第一に検討すべきことだろう。
ただこれらは、既存の商品にプラスアルファのサービスという点で、真の「多角化」とはいえないかもしれない。まったく別分野の事業で成功した例をみてみよう。
ヤマハ株式会社。前身の「日本楽器」の名が示すように、楽器メーカーとして広く知られている。しかしヤマハの商品は、楽器だけではない。パソコン周辺機器、家具(現在は子会社に委託)、スポーツ用品・・・と、その多様性には驚かされる。一見楽器とは無関係なものばかりだが、ヤマハは何のビジョンもなしに経営多角化を進めたわけではない。家具やスポーツ用品事業は、楽器の素材研究の一環として始めたものだった。また、現在でこそコンピュータと音楽は切っても切り離せない関係にあるが、ヤマハがコンピュータの基礎研究に取り組んだのは何十年も前のアナログ時代である。このあたりにヤマハの先見性を窺うことができよう。
ヤマハの多角化の特徴は、本来のドメインを応用できる分野に進出した点、新分野での成果を本来のドメインにフィードバックしている点である。この場合本業とは全く異なる事業への進出の方が、成功したときの成果が大きくなるだろう。本業の方で熟練された新技術の導入で、その業界にとって革命的影響を及ぼすことが考えられるからである。
以上のことから考えられるのは、経営多角化の成功には、自社のメイン商品をどう生かすか、という点がキーポイントだということである。商品に付加価値をつけるにせよ、別分野に応用するにせよ、自社の切り札となる商品が確立していなければ意味がない。経営多角化の第一歩は、自社が何を切り札としている企業なのかを見つめ直し、それに基づいた戦略を構築することではないだろうか。
最後に社内意思統一の必要性について触れておきたい。
中小企業は経営方針が一人、またはごく限られた人数で決まる。そのため経営者の「個人の意思」を如何にして「会社の意思」にするかが重要になる。中小企業が新事業を始めるということは、全社的な取り組みであり、社内の意思統一が不可欠だからである。
私はこの点において、中小企業の最大のメリットが生かされると考える。私自身、籍を置いて強く感じているが、中小企業は社員と経営陣との距離が近く、コミュニケーションを取りやすい。このことは社員末端までの意思統一が図りやすいことを意味する。
綿密に練られた経営方針も、社員がそれを実行する「意思」を持ち合わせていなければ、絵に描いた餅でしかない。経営多角化を成功させるのに一番重要なのは、社員の新事業に対する情熱と執念なのだから。
(注)参考文献
『強い会社は勝つために何をしたか』
超多角経営で成功する「楽器王国」の変身
P277~ 1990年10月20日初版
著者 上之郷利昭
『ProVISION No30』
2001年07月21日 日本IBM発行
http://www.nttdocomo.co.jp/company/gaiyou.html
http://www.apu.ac.jp/~makita/guide/marke1.htm