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2000年度 奨励賞受賞 | これまでの受賞者

日刊工業新聞社主催 フレッシャーズ産業論文コンクール
奨励賞受賞
IT革命の真の目的

ヤマハモーターソリューション株式会社
成瀬 佐織

1、はじめに

我が国では、1年ほど前から「IT革命」という言葉をよく耳にするようになった。95年のウィンドウズの発売・爆発的人気による普及をきっかけに、コンピュータは安くなり、インターネットの利用が進み、通信技術の進歩もめざましい。そして、IT革命のメインとして考えられているのは、今まで人間の手で行われていた仕事の一部がコンピュータに取って代わられるようになることである。それにより時間とコストが大幅に削減されるようになる。IT革命が起こることにより、社会はデジタル化する。全ての流れが今までよりも速くなる。…一般的にはこのように考えられている。IT革命とは、果たしてこの通りなのだろうか。 おそらく大多数の人はその言葉を正しく認識していないであろう。少なくとも私とは異なった認識をしている。IT革命という言葉を聞いたときの反応は、その人が携わる仕事により様々である。特に、革命を起こす側ではなく革命の影響を受ける側の人の例を、いくつか挙げてみよう。

2、IT革命のとらえ方

例えば、企業と企業の間、企業と顧客との間の受け渡しのような流通的な仕事に携わる人の中には、IT革命に恐れをなしている人もいる。インターネットを含む世界的規模のネットワークの普及により、取引は電子商取引が中心となる。電子商取引であれば中間的な卸売業者などを経ることなく取引ができ、コストは大幅に削減できる。すると、流通のように中間的な業者自体が必要ないということで、人間が行う流通の仕事はなくなってしまう。したがって、このような仕事に携わる人は失業を恐れるようになり、その元凶となるIT革命には恐れをなしていると考えられる。
次に、企業を経営する人はどう思っているだろうか。彼らはIT革命を歓迎しているであろう。なぜなら、「いかにコストを減らすか」ということが彼らの関心事の一つでもあるからだ。あらゆる業種において最もコストがかかっているのは人件費である。しかも、多くの企業は一人の人間を、日本の慣習として暗黙の了解で定年まで面倒を見ている。今まで人間の手で行ってきた例えば人事・経理のような部分がコンピュータで管理できてしまうのであれば、コストのかかる人間はリストラし、コンピュータに任せた方がコストはずっと低くなる(経営者がリストラを励行するかどうかはまた別の問題だが)。したがって、経営者はIT革命に期待を寄せているだろうし、一方、ルーチンワークに携わり、リストラを恐れる労働者は、流通業者と同じく恐れをなしているだろうと考えられる。
また、少数ではあるが、IT革命など不必要なものだと考え、抵抗している人もいる。「コンピュータのように無機質なものに仕事や心を100%あずけられない」と。
このように、その人が携わる仕事によってIT革命はコストを下げるというプラスの影響を及ぼすようにも見えるし、失業者が増える危険性があるというマイナスの影響を及ぼすようにも見える。しかし、IT革命には、プラスの影響であろうと、マイナスの影響であろうと、その影響だけで終わらせてはならない真の目的があるのではないかと考えた。

3、IT革命の真の目的

ITすなわち情報通信技術の発達により、全ての情報がデジタル化される。デジタル化されることで大量の情報を蓄積することができ、また、必要な情報は瞬時に手に入れることができる。技術の進歩に伴い、職人的ノウハウまで情報として蓄積されうる時代だ。サービスやモノを提供する側もそれを求める顧客の側も、その情報を利用し、取引をすることができるようになる。顧客(消費者)は、人の介在なくしてほしいものを手に入れることができる。しかし、IT革命により、人間の仕事がコンピュータに取って代わるといっても、人間の仕事すべてをコンピュータができるわけではない。すでに情報として蓄積されている部分に関してはコンピュータはほぼ完璧に処理することができるが、人間の仕事を10割と考え、およそ7割をコンピュータができたとしても、人間でなければできない、人間だからこそできる仕事が3割は残っているのである。例えば、コンピュータに処理させれば×という結果が返ってきて、顧客はあきらめるしかないような場合でも、人間に掛け合うことで○という結果が返ってくるかもしれない。コンピュータにはない「気持ち」が乗ることにより、コンピュータで100%のものが120%になることもあるのだ。
IT革命の目標と目的を考えるならば、目標は人間の仕事の7割を補うことであり、目的は残りの3割、つまり人間にしかできない高度で知的な仕事に、人間の能力を集中させることのできる環境を作ることではないかと考える。決してIT革命がもたらすものは失業者の増加でもコストの削減でもない。人間の仕事の一部をコンピュータに任せることによって削減できたコストを、高度で知的な仕事をする3割の側へつぎ込むのである。そのことで、さらによいものを生み出すことができる(高度で知的な仕事に全精力をつぎ込んだ結果できたよいものを、今までと同じもしくはそれ以下のコストで作り出せるのなら、結果的にはやはりコストの削減といえるが)。よって、既述の経営者はコストが下がる、効率が上がる、と喜んでいる場合ではなく、労働者も仕事がなくなると恐れている場合ではない。経営者は残りの3割をいかに強化するか、労働者は残りの3割の中でいかに能力を発揮するか、を考え実行する機会がIT革命によって与えられるのである。私はその3割を重要視したい。企業の違いはその3割に現れる。他の企業と差をつける、付加価値をつけるには、その3割をどうするかにかかっているのである。その3割は企業の顔ともなり、ITを取り入れたしくみが整った後は、その部分に独自色を出すことが仕事ともいえる。ある種、3割の部分は企業にとって10割の仕事となるのである。これがIT革命の真の目的だと私は考える。ただし、これは、ITがもたらす効果を決して無視しているわけではない。ITはあくまでも人間が利用する手段であり、それら7割に我々人間が使われるのではなく、使う、という積極的な意思をもって利用していくことが必要なのである。

4、おわりに

あるゲーム機のコントローラは初め、ボタンを押すだけのデジタルコントローラだった。ところが、「オン」「オフ」だけでは表現できない微妙な動き・力・大きさ(どのくらい「オン」なのか)を表現したいという要望に応え、アナログコントローラが登場した。名前は「アナログ」とついているが、実際は、デジタル化した情報が伝達されている。アナログは残るのか。それともアナログな部分もすべてデジタルに変換できてしまうのか。やはりこれからの時代、デジタルは万能となっていくのだろうか。
いや、万能ではない。一昔前、ワープロが普及し始めたころは手紙をワープロで書くのがオシャレであった。今では逆に味気ないと思われている。デジタルにはできないアナログな部分が人間には存在する。極論としては、生物の情報が詰め込まれている遺伝子をすべて解析することができれば人間はデジタルなものである、という考えもある。遺伝子がまったく同じであるクローン動物が作られているのも事実だ。しかし、個人的な願望が入ってしまうが、私にとって解析し尽くされた人間など、もはや人間ではないと考えたい。ゆえに、この極論を除けば、どんなにIT技術が進んだとしても、依然として人間でなければできないアナログな仕事はあると考える。
私は情報システムの分野に足を踏み入れた。ITが万能ではないと考えるのはある意味逆行しているのかもしれない。確かにIT技術を活かし、効率がよく、コストの低いしくみを作ることは求められているだろう。だが、我々もシステムを作るという点で製造業であり、人間の顧客が存在し、そこにはコミュニケーションが存在する。ITが必要不可欠な時代の中で、あまりにITを優先して考えたがために人間と人間のコミュニケーションを忘れてしまうことはあってはならないと考えた。
人間の仕事のうち、高度に知的な3割の部分に安心して気持ちよく力を注いでもらうためには、残りの7割の部分に携わる者としてはその7割を完璧にするのが役割だろう。IT技術の進化により、さらにスピードのある、変化の激しい時代が続くと思われるが、それに対して柔軟に、迅速に対応できるように努力していきたい。そして、高度に知的な3割をサポートすることを意識して7割の部分を作り出していきたい。

(注)参考文献
中谷巌・竹中平蔵
「ITパワー-日本経済・主役の交代-」
PHP研究所



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